この記事では、心理療法の技法の一つである家族心理教育について、一般の方にも分かりやすく解説しています。

困難な疾患や深刻な精神問題を抱える治療対象者に対してのみでなく、家族単位で心理教育的アプローチを行うことによって、治療対象者本人の症状改善に、より大きな効果が得られることが実証されています。

家族心理教育の概要

心理教育の定義

心理教育の代表的な定義は、厚生労働省精神・神経疾患研究の一環として2004年に発表された、「心理教育を中心とした心理社会的援助プログラムガイドライン」の中に見ることができます。

当該ガイドラインによると、心理教育は、「精神障害やエイズなど受容しにくい問題を持つ人たちに、正しい知識や情報を心理面への十分な配慮をしながら伝え、病気や障害の結果もたらされる諸問題・諸困難に対する対処方法を習得してもらうことによって主体的に療養生活を営めるよう援助する方法」と定義されています。

つまり、「心理教育」とは、困難な問題や疾患を持つ人々に対して、その心理面に配慮しつつ正しい知識や情報を伝え、適切な対処法を習得することでより良い療養生活を営めるように導くような援助方法のことをいいます。

家族心理教育とは

家族心理教育とは、上記の心理教育の定義の延長にあり、本人だけでなく、家族単位で行われる心理教育のことを指しています。疾患や障害を抱える本人の家族に病気や障害についての正しい知識や対処法を習得してもらうことで本人と医療関係機関と家族が協働関係を持ち、治療対象者本人のより効果的な療養生活への援助体制を整えるものです。

家族心理教育が用いられる具体的なケースは、主にエイズや統合失調症、うつ病、躁うつ病、引きこもり、人格障害や発達障害などの疾患や障害に限らず、非行や問題行動が深刻な場合や、非行少年や犯罪者の社会復帰の際などにも必要とされる場合があります。

家族心理教育の歴史

心理教育はもともと、非行問題や攻撃性の高い行動をする子どもへの対応としての教育分野と、統合失調症患者とその家族への支援としての医療分野の二派から発展した歴史的背景があります。

前者は主に個人と学校職員に用いられるアプローチですが、家族心理教育の場合は、後者の医療分野が源流となります。

1970年代、統合失調症患者の再発率と家族の高い感情表出傾向との関係性についての研究が行われ始め、1980年代には統合失調症患者と家族のための心理教育として展開されるようになりました。この時の主要人物アンダーソンとマクファーレンが1988年に来日し、ワークショップを行って以降から、日本国内での家族心理教育が始まったとされています。

家族心理教育の目的

エンパワーメント

家族心理教育は「エンパワーメント(権限付与または能力開発などの意)のための支援」と言われています。参加した人の気持ちが楽になり、元来持っている自分の力に気づけるようになることや、問題を抱えていても「なんとかやっていけそう」と思えるようになることが重要な変化のポイントであると同時に、自分に必要なことを選び取れる力がつくといった感覚が持てるようになることが目標とされています。

そのためには、心理教育があくまでも一方的な情報提供の場ではなく、家族心理教育の対象である家族が自己決定・自己選択にすことによって自らの判断力の力量を高め、知識や体験を資源活用できるように方向づけることが必要となります。

病気や問題に対する正しい理解

家族が病気や問題を正しく理解し、治療対象者本人の行動の特性を理解することで、家族にとってこれまで不可解であったり、納得できなかったり、あるいは否定的に見ていた本人への捉え方に対して変化を与えることができます。対象に対する捉え方が変化すると、対象に対する対応に変化をもたらしやすくなります。

日常の家族間コミュニケーションの見直し

家族心理教育の第一歩として、病気や問題に対する正しい理解が得ながら、家族はこれまでの治療対象者本人との家族間コミュニケーションの取り方について振り返ります。これまでのコミュニケーションの中にあった悪循環を把握することで、何がいけなかったのか、あるいはこれからどのように接するべきなのかといった改善策を講じるためのヒントになります。

適切な対応方法と家族関係改善

日常のコミュニケーションを見直して悪循環に気づき、適切な対応方法を知るによって、問題や疾患の要因の一つになっていたと思われる家族間コミュニケーションに、良好な変化を起こすことが可能になります。ひいてはそれが治療対象者本人に、あるいは家族全体に良い効果を与え、それまで問題となっていた家族関係の改善につながり、その家族にとってより最善の療養生活を営めるように援助することが、家族心理教育の大きな目的の一つです。

家族心理教育の手段

参加形態

家族心理教育の参加形態には、単一の家族を対象とする「単家族心理教育」と、複数の家族を対象とする「複合家族心理教育」があります。

教育セッション

いずれの参加形態にも共通する心理教育手段として、ニーズに合った知識や情報を提供をするという意味を持つ「教育セッション」があります。

問題や病気についての知識不足や誤った知識からくる不安や戸惑い、あるいは不必要な試行錯誤などを解決し、治療対象者本人や家族の体験への配慮のために必要な情報が得られる場でもあります。

グループセッション

グループセッションは、「対処について相談できる場」とされ、単家族・複数家族いずれの参加形態にも共通する手段です。

共通する問題や病気を抱えながら、異なる経験や段階にある家族同士が経験を持ち寄ることで、お互いの経験をそのまま活用したり、工夫して活かすことができ、差し当たっている困難に対するアプローチの幅を拡げていくための資源となります。

これら教育セッション・グループセッションは、その家族が抱える状況に応じてバランスよく組み立てる工夫が必要であるとされています。